内科・循環器内科・心臓リハビリテーション科

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心筋症

Cardiomyopathy 心筋症

心筋症とは

心筋そのものの異常により、心臓の機能異常をきたす病気であり心不全や不整脈の原因となります。心筋症は「特発性心筋症」と全身性の疾患の結果心筋障害を来す「二次性心筋症」に分類されます。心臓の形態によって大きく「心臓が風船のように拡大して、心臓の収縮力が低下する」場合と「心臓の収縮は正常だが心臓が肥大し拡張が妨げられる」場合の2つのパターンがあります。特発性心筋症において前者のような形態で頻度が多いのは「特発性拡張型心筋症」であり、後者で頻度が多いのは「肥大型心筋症」になります。近年注目されている二次性心筋症として「心アミロイドーシス」があり、この3つの疾患について説明します。

特発性拡張型心筋症について

特発性拡張型心筋症とは

左室のびまん性収縮障害と左室拡大を特徴とする疾患群であり、びまん性の収縮障害を引き起こしうる特定の病態(2次性心筋症)を除外した場合に診断されます。

(出典:インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラス)

特発性拡張型心筋症の原因は

正確な原因はわかっていませんが、心筋を構成する蛋白や収縮に関連する遺伝子異常や自己免疫疾患やウイスル感染など環境因子が影響していると考えられています。有病率は軽症例も含めると2000人に1名とされており、特発性拡張型心筋症の指定難病を受けていらっしゃる患者様が令和元年の報告では全国で19,423人とされています。

特発性拡張型心筋症の検査

心エコー検査で心機能や心臓の形態を把握し、経時的に評価を行います。診断のためには心臓の収縮力を低下させるような他の病気がないかを検査します。具体的には心臓カテーテル検査を実施して冠動脈に狭窄がないかを評価し、採血などで心機能を低下させるような病気が隠れていないか、場合によっては心筋生検を実施し病理学的に評価を行います。最近では心臓のMRI検査で心筋のダメージを評価することが診断や予後予測に有用と報告されています。心不全の経過を評価するためにBNP/NT-proBNPを、不整脈の評価のためホルター心電図を定期的に実施します。

特発性拡張型心筋症の治療

心不全の「心不全の治療」で説明をしているようにまずはしっかりと薬物治療(レニン・アンジオテンシン系抑制薬、β遮断薬、抗アルドステロン薬、SGLT2阻害薬、必要に応じて利尿剤)を行うことが重要です。このような薬物治療によって3~6ヶ月経過すると心臓の収縮力が改善する症例もあり、この場合には左室収縮力が改善した心不全(heart failure with recovered ejection fraction: HFrecEF)と呼ばれ、内服を継続している限りは予後は良好といわれており、厳密には拡張型心筋症とは別の病態として扱います。
非薬物療法や心臓リハビリテーションについても心不全のページを参考にしてください。拡張型心筋症が本邦における心臓移植の原因疾患としては最も多い疾患です。

拡張型心筋症の予後

本邦における拡張型心筋症だけを対象とした大規模な予後データはありませんが、1999年時の調査では5年生存率は76%、2015年に発表された東北大学のデータでは3年生存率はおよそ91%であり、治療の進歩によって生命予後は改善しています。しかし中には急激に病気が進行してしまったり、致死性不整脈を発症するなどの経過をたどることもあります。

肥大型心筋症について

肥大型心筋症とは

左室ないしは右室心筋の肥大と心肥大に基づく拡張能低下を特徴とする疾患群であり、心アミロイドーシスや高血圧など心肥大を来す二次性心筋症を否定することで診断します。

(出典:インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラス)

肥大型心筋症の原因は

サルコメアなど心筋構成蛋白を司る遺伝子変異が多く、約60%が常染色体顕性遺伝に従う家族歴を有しているとされています。有病率は軽症例も含めると500人に1名とされており、特発性拡張型心筋症の指定難病を受けていらっしゃる患者様が全国で令和元年の報告では4,205人とされています。

肥大型心筋症の検査

心エコー検査や心臓カテーテル検査、心臓MRI検査、ホルター心電図などは拡張型心筋症と同様です。肥大型心筋症では左心室の肥大に伴って左室内に圧力の差を生じてしまう閉塞性肥大型心筋症が25%程度存在します。このような症例においては心エコーで左心室の中の圧力の差を評価したり、それに伴う僧帽弁の逆流がないか確認します。

肥大型心筋症の治療

拡張型心筋症とは少し内服薬は異なっており、不整脈抑制、心臓の過収縮を抑制するためβ遮断薬を中心に治療を行います。閉塞性肥大型心筋症の場合には過度に心臓が強く収縮して左心室内の圧力の差を増大させないように、心臓の収縮力を抑制するようなカルシウム拮抗薬や抗不整脈薬(これらの薬には心臓の収縮力を抑制する作用があります)を使用することがあります。心房細動発症のリスクが高く、発症した場合には抗凝固療法による塞栓症予防に加えて不整脈に対する心拍数コントロールまたは正常な脈(洞調律)を維持するための治療を考慮します。
非薬物療法について、突然死を来すような致死的な不整脈発症のリスクが高いと判断した場合には植込み型除細動器を植え込むことがあります。閉塞性肥大型心筋症の対する薬物治療に抵抗性の場合には、外科的に肥大している心筋を切除する(中隔心筋切除術)や、カテーテルを使って心臓が肥大しているとこを栄養している冠動脈にエタノールを注入してわざと心筋梗塞を作ることで左室内の圧格差を改善させるような方法(経皮的中隔心筋焼灼術)、ペースメーカーによって心臓の収縮のタイミングをずらすことにより心臓の収縮を抑制する結果、圧格差を改善させるような治療もあります。

肥大型心筋症の予後

本邦における肥大型心筋症の予後は10年生存率で81.8%と報告されています。こちらも、治療の進歩によって生命予後は改善しています。しかし中には拡張型心筋症のように左室心筋の収縮力が低下する拡張相肥大型心筋症や心尖部に心室瘤を形成するような症例においてはリスクが高く、厳重な経過観察が望まれます。

心アミロイドーシス

心アミロイドーシスとは

アミロイドーシスという病気は難溶性の線維状蛋白であるアミロイド線維という異常蛋白が様々な臓器に沈着することにより障害を来たす疾患の総称です。アミロイド蛋白には多くの種類があり、代表的なものとして免疫の異常に合併する「ALアミロイドーシス」やトランスサイレチン(TTR)という肝臓から作られる物質の異常による「トランスサイレチンアミロイドーシス」があります。心臓にアミロイド蛋白が沈着した場合は心臓が肥大し、硬くなってしまうことで心不全(足がむくんだり、息切れが強く日常生活に支障を来たす)になったり、脈が遅くなったり、突然早くなったりする不整脈を来たす「心アミロイドーシス」という病気を発症します。

特に近年高齢者心不全においてトランスサイレチン型心アミロイドーシスが潜在していることが明らかになり、後述のような治療薬も使えるようになりました。また、心アミロイドーシスの存在を疑うような特徴的な経過も明らかになってきました。
下記のような症状があれば一度心アミロイドーシスを疑って精査をすることをおすすめします。

  • 高齢(70歳以上~)の男性
  • 手根管症候群※や腰部脊柱管狭窄症、肩腱板断裂の既往がある
    ※手根管症候群の症状:親指から中指にしびれや痛みがあり、特に朝方症状が強く手を振ると良くなる。ボタンが留めにくい、ペットボトルの蓋が開けれない、親指の付け根の筋肉が痩せている
  • 心房細動やペースメーカーを必要とするような心拍数が遅くなる不整脈がある
  • 心臓が肥大していると言われたことがある
  • 心不全と言われて、足がむくむことがあり利尿剤を飲んでいる

心アミロイドーシスの原因は

ALアミロイドーシスは異常形質細胞から産生されるモノクローナル免疫グロブリン(M蛋白)の軽鎖(light chain)がアミロイド蛋白になることで病気を発症し、「血液の癌」のような側面を持っています。
トランスサイレチン型アミロイドーシスには遺伝性のタイプと加齢に伴って発症する野生型の2つに分けられ、自覚症状や発症年齢がことなります。トランスサイレチン(TTR)という蛋白は4つの蛋白がくっついて安定した状態で存在しビタミンAや甲状腺ホルモンを運搬しているのですが、安定感が悪くなりばらばらになってしまうと一つ一つの蛋白が絡み合ってナイロン状のアミロイド繊維というものが出来てしまいます。これが心臓に沈着していくことでトランスサイレチン型心アミロイドーシスが進行していきます。

心アミロイドーシスの検査

まずは心電図や心エコー、採血によって心アミロイドーシスの可能性について評価を行います。心アミロイドーシスの可能性がある場合には骨シンチグラフィーや心臓MRI検査という画像検査を実施し、心アミロイドーシスの可能性を評価します。画像診断で心アミロイドーシスが強く疑われる場合には、心筋などの組織にアミロイド蛋白が沈着しているかどうか、沈着していればアミロイド蛋白が30種類以上あるアミロイド蛋白の中でどのようなものなのかを調べます。トランスサイレチン型アミロイドーシスと診断された場合にはトランスサイレチンの遺伝子変異の有無を遺伝子検査で評価します。

心アミロイドーシスの治療

心アミロイドーシスの治療は①心不全や不整脈の治療、②アミロイドーシスに対する治療を平行して行います。①については主に利尿剤などを使用しうっ血(体に水がたまって足がむくむ)の管理を行ったり、不整脈の治療を行います。②についてはALアミロイドーシスに対してはヒト型抗CD38モノクローナル抗体であるダラツムマブを含む化学療法の有用性が近年示されており、熊本大学病院血液内科で治療を行っています。
トランスサイレチン型心アミロイドーシスについてはタファミジスという内服薬が承認されています。タファミジスは4つのタンパク質がくっついて安定化しているトランスサイレチンばらばらにならないようにする薬剤(トランスサイレチン安定化薬)です。結果的にアミロイド蛋白が出来るのを抑制します。タファミジスには沈着してしまったアミロイド蛋白を心臓から取り去ることは出来ません。そのため心アミロイドーシスの完治は期待できません。あくまでも進行を抑制する薬です。

心アミロイドーシスの予後

ALアミロイドーシスの予後は不良であり、心不全を伴うような重症例において未治療で平均的な余命が6ヶ月から12ヶ月と言われています。野生型トランスサイレチン型心アミロイドーシスの場合、熊本大学病院のデータでは未治療の場合には5年後の生存率は約50%でした。近年心アミロイドーシスと診断される症例が増加し、病初期の段階でみつかる症例も多くなってきていること、タファミジスの登場によって生存率は改善しています。熊本大学病院でタファミジスを内服している症例の治療開始後2年の生存率は86%でした(ESC Heart Fail. 2023;10:2319-2329, ESC Heart Fail. 2020;7: 2829–2837)。
現在もトランスサイレチン型アミロイドーシスに対しては新しい薬剤が開発、治験が行われています。

当院における心筋症診療の特徴

院長は長きにわたって心不全・心筋症の診療および研究をして参りました。熊本大学循環器内科では植込み型補助人工心臓および心臓移植患者の外来管理を行い、心アミロイドーシスおいては多くの診断および治療経験を有しています。心筋症の正確な診断は適切な治療を行う上で重要であり、専門施設と連携しながら診断および治療を行い、生涯にわたる心筋症の管理を行って参ります。

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