内科・循環器内科・心臓リハビリテーション科

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心不全

Heart failure 心不全

心不全とは

心不全とは、「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」です。心臓は全身に血液を送り出すポンプ機能を果たしていますが、この機能が発揮できなくなって息切れやむくみが生じるなど日常生活に支障がでたり、急に状態が悪化して入院加療を必要とすることがあります。心不全そのものは残念ながら治癒することはなく、継続的な治療および心不全管理が必要となります。我が国の循環器疾患の死亡数は、癌に次いで第 2位であり、心不全による5年生存率は 50%と予後についても決して良くありません。高齢化社会を迎える本邦では心不全患者が急増しており、社会問題となっています。そのためには心不全を正しく理解し、予防することが重要になります。

心不全の管理

心不全の管理には

  • 心臓が悪くなる原因(基礎疾患)
  • 心不全を増悪させる併存疾患
  • 心不全を悪化させる増悪因子

の3点を理解しながら治療を行うことが必要です。

心不全の原因とは

心不全の原因

心不全の原因として

  • 左室肥大や収縮を低下を来す高血圧
  • 心臓の中で血液の流れを正常に保つ弁に不具合が生じ、逆流したり血流を妨げてしまう弁膜症
  • 冠動脈の閉塞によって心筋の壊死を来す心筋梗塞
  • 脈が遅くなったり早くなるなどの不整脈
  • 心臓の筋肉自体の病気である心筋症
  • 冠動脈の狭窄により心臓に十分な血液を供給できなくなる狭心症
  • 腎臓の機能が低下した結果、水分が体に貯留する腎不全

があります。

トーアエイヨー:心不全の進展ステージと再発予防のために気を付けることより引用

心不全を増悪させる併存疾患

心不全を増悪させる併存疾患としては高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、肺気腫、貧血、睡眠時無呼吸症候群、認知症や抑うつなどがあり、それぞれの疾患に対して評価や治療が必要です。

心不全の増悪因子

心不全の増悪因子として最も頻度が高いのは水分・塩分制限の不徹底であり感染症や内服の不徹底、過労が続きます。心不全の増悪から心不全入院の悪循環を防ぐためには、周りのご家族も含めてこれら増悪因子を理解し、心不全の増悪因子を避けることが心不全をうまく付き合っていくコツになります。

心不全の症状

心不全では全身に血液を送るポンプ機能の低下よる低拍出の症状と送り出した血液が体にたまるうっ血の症状に分けられます。
このような症状があれば一度心不全を疑って詳しい検査を行うことを勧めます。

低拍出の症状

  • 血圧が低下する
  • 倦怠感
  • 腹部膨満感(おなかが張る)

うっ血の症状

  • 労作時呼吸困難(動くと息苦しい)
  • 発作性夜間呼吸困難(夜間に寝ていて急に息苦しくなる)
  • 起座呼吸(横になると息が苦しく、すわっていた方が楽になる)
  • 下腿浮腫

心不全のステージ分類

心不全とその進展ステージを元にした概念図を下に示します。心不全症状はないが高血圧や糖尿病などの心不全のリスクを有している段階(ステージA)、心不全症状はないが左室肥大や心筋梗塞による心機能障害など器質的な心機能障害を有する段階(ステージB)があり、息切れなどの症状を有する症候性心不全(ステージC/D)に至らないよう治療介入することが重要です。ステージC/Dになると心不全の増悪により入院を必要とすることもあり、心不全治療により低下した身体機能は一過性に回復するものの心不全増悪を繰り返すことで徐々に身体機能が低下していきます。ここで大切なのは心不全増悪を避け、出来るだけ良い状態を維持していく、そのために治療の最適化や生活の見直しなどが必要になります。

トーアエイヨー:心不全の進展ステージと再発予防のために気を付けることより引用

心不全の検査

心不全の診断および病態の評価のために以下の様な検査を実施します。
病歴や聴診などの身体所見、胸部レントゲン写真や心電図から心不全の有無や心不全の原因として可能性が高い疾患を評価します。心不全の診断においては心臓に負担がかかってくると上昇する血液検査であるBNP/NT-proBNP検査が有用です。BNP≧35 pg/mLまたはNT-proBNP≧125 pg/mLの場合は、前心不全~心不全の可能性があり、心不全の発症予防や治療が必要となる可能性も考慮し、心不全の危険因子を有する症例では、胸部X線、心電図、心エコー図検査を実施することが推奨され、BNP≧100 pg/mLまたはNT-proBNP≧300 pg/mLでは心不全の可能性が高くなり早期の精査が勧められます。その後心エコー検査を行い、心臓の収縮力や肥大、弁膜症の有無を評価します。上記の様な検査は当クリニックで実施可能です。
更なる画像検査や心臓カテーテル検査等が必要と判断される場合には専門医療機関に検査・診断を依頼します。

血中BNPやNT-proBNPを用いた心不全診療に関するステートメント2023年改訂版

心不全の治療

心不全の治療は薬物治療と非薬物治療(手術やペースメーカーなどのデバイス治療)に大別されます。

薬物治療

現在心不全の治療は左室駆出率という心臓の収縮力に応じた薬物治療を推奨しています。左室収縮力の低下した心不全(Heart failure with reduced ejection fraction: HFrEF)において以下の4種類の薬剤が推奨されています。

レニン・アンジオテンシン系抑制薬

  • ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬
  • ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)
  • ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)

これらの薬は降圧薬としても用いられる薬剤で、心不全で活性化している血圧上昇・心筋肥大や線維化、体液貯留に関わるホルモンであるレニン・アンジオテンシンの働きを押さえて心臓を保護します。ARNIはそれに加えてナトリウム利尿ペプチドという心臓に保護的に働くホルモンを分解してしまう酵素(ネプリライシン)の働きを阻害することで、心臓を保護します。これらの薬は降圧作用があるため、血圧を見ながら患者様に適した薬剤、および量を調整します。

β遮断薬

心不全の状態では交感神経が活性化し心臓を頑張って働かせて、低下した心臓の機能を補っています、短期的(心不全が安定していない非代償期)には必要な反応ではあるものの、長期間このような状態が持続することは心臓にとって好ましくありません。そのためβ遮断薬は交感神経の働きを抑えることで心臓を休めることで、長期的に心不全の悪化を防ぐ薬剤です。注意する点とすると心不全が落ち着いていないのにβ遮断薬を導入したり、急に高容量のβ遮断薬を投与すると心不全が増悪するので少量から開始します。左室収縮力の低下した症例の中にはこれらの薬剤を使用することで左室収縮力が改善することがあります。

ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)

生命が海から陸上に上がるときに塩分を失わないように獲得したアルドステロンというホルモンはミネラルコルチコイド受容体に作用し塩分や水分の再吸収により海水と同じような組成を体の中に保つ役割をしています。塩分過多の現代においては皮肉にもその作用が血圧上昇や塩分貯留、臓器障害を引き起こすためMRAによりその働きを抑制し、心不全治療として体にたまった余分な塩分や水分を尿として体の外に排出させます。血清カリウム値の上昇に注意が必要です。

SGLT2阻害薬

この薬剤は2014年より糖尿病の治療薬として承認され、尿から糖を排出することで血糖を下げる薬剤です。しかし多くの大規模な研究結果から心不全患者に対してこの薬剤を使用することで心不全イベントを抑制出来ると言うことが明らかになりました。さらに糖尿病の有無や左室収縮力の低下の有無にかかわらず有効であることが明らかになり、心臓だけではなく腎保護効果についても明らかになっています。心不全の治療薬として広く使用されている一方で、この薬剤の多面的な作用の中でどのような機序が最も心不全の治療として効果を発揮しているかについては議論が続いています。一方で尿路感染症や食事が取れないときに休薬が必要であったり、高齢で栄養状態が良くない患者様には注意が必要な薬剤です。

利尿剤

体にたまった余分な水分や塩分を尿として排出することでうっ血による症状を改善させる薬剤です。本邦においては①ループ利尿剤、②サイアザイド系利尿剤、③トルバプタンがあり、個々の病態や併存疾患に合わせて種類や量を調整します。利尿剤を多く使えばうっ血(心不全)は改善する方向に向かうのですが、使いすぎると腎機能障害や電解質異常を来すことがあり、適正な量を見極めたり、必要なときに一時的に増量してうっ血を管理することが重要になります。

心不全の非薬物治療

冠動脈疾患に対する血行再建術

心臓の栄養血管である「冠動脈」が狭窄または閉塞した結果心機能の低下、心不全の増悪に寄与している場合には狭くなった冠動脈をステントで拡張するカテーテル治療や、病変が複数箇所あるなど病変が複雑な場合にはカテーテル治療より冠動脈バイパス手術を選択します。

弁膜症の治療

心臓の弁が狭窄して血液の流れを妨げている、または逆流して血液が全身にうまく循環しない場合には弁膜症の治療として胸を開いて行う手術である人工弁置換術(人工の弁に入れ替える)、弁形成術(自分の弁の形を整える)やカテーテル治療として大動脈弁狭窄症に対してカテーテルを用いて人工弁を留置する経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI:Transcatheter Aortic Valve Implantation)や僧帽弁閉鎖不全症に対してクリップで逆流している僧帽弁をつまむことで逆流を制御する経皮的僧帽弁接合不全修復システム(MitraClip)があり、これらの治療は専門施設において実施されています。

心室再同期療法(CRT: Cardiac Resynchronization Therapy)

心臓の収縮は電気的な刺激によってタイミングをコントロールされていますが、一部の心不全においてはこの収縮のタイミングが電気の流れの障害によってずれ(非同期)が生じます。これにより心臓のポンプ機能が低下した症例に対して、ペースメーカーを用いて同期させる治療が心臓再同期療法になります。すべての患者様に有効という訳ではありませんが、以下の写真のように植込み後に心機能が改善する症例もあります。

植込み型補助人工心臓および心臓移植

最適な心不全治療を行ってもなお心不全増悪による入院を繰り返すなどの「重症心不全」の場合には植込み型左室補助人工心臓や心臓移植が検討されますが厳格な適応基準があり家族の支え、本人の強い意志が必要な治療です。

心不全患者の生活指導

上記の様に心不全には様々な治療薬剤、治療手段がありますが、最も大事なことは「心不全を理解し、自分または家族で心不全を管理していくこと」になります。自分がどうして心不全になったのか、内服薬の目的や意義、治療の必要性や注意するべきポイントを理解し、心不全増悪を避けることが大切です。

具体的な心不全の生活指導

内服の遵守

内服を忘れたり自己中断することは心不全増悪の原因として頻度が高い原因の一つです。指示された内服をきちんと内服し、自己判断で中止や変更はしないでください。お薬が合わないと感じた場合にはご相談ください。

食生活・塩分制限

塩分過多になると、体の中に水分がたまりやすくなり結果的に足がむくんだり、胸に水がたまって息切れや倦怠感などの心不全症状が悪化します。バランスの良い食事を心がけて、塩分は6g未満を目安に、塩分を取り過ぎないように心がけてください。

自己管理

心不全手帳を利用して、自分の血圧や体重、自覚症状の推移や内服の確認をしましょう。体重が1週間前と比べて2-3Kg増加して足がむくむ、寝ていて息苦しくなり、座っている方が楽だなどの症状があれば心不全が増悪している可能性があり、早めの受診を心がけてください。

感染管理

感染症を契機に心不全が増悪することがあります。手洗いやうがいなどの基本的な感染対策に加えて、インフルエンザや肺炎球菌ワクチンを接種しましょう。

禁煙教育・支援

たばこには動脈硬化を悪化させたり、肺機能を悪化させてしまうため禁煙が必要です。減煙ではなく、禁煙を行わないと心不全のリスクは低下しないことがわかっています。

心不全とリハビリテーション

心不全が悪化すると息切れなどの症状から体を動かすことが出来なくなり、身体機能が低下します。また心不全と言われると、心臓に負担をかけないように運動を控える方もいらっしゃいます。心臓リハビリテーションは心不全に対して行うことが強く推奨される治療プログラムであり、心不全患者に心臓リハビリテーションを行うことで心不全による再入院率の低下や身体機能の改善効果が明らかになっています。
心臓リハビリテーションでは運動療法に加えて、心不全増悪の所見がないか心不全手帳が記録できているかなど心不全管理が出来ているか医療者が定期的にチェックをするので、心不全増悪の早期発見や対応が可能になります。

当院における心不全診療の特徴

当院では心不全の診断、治療、心臓リハビリテーションを一気通貫に行うことが可能なクリニックです。心不全は生涯にわたって治療を継続する必要がある疾患です。心不全診療の専門性を発揮することで1人でも多くの患者様が心不全による入院を回避し、希望する生活が長く送れるようサポートさせていただきます。

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