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閉塞性肥大型心筋症に対するマバカムテンの有効性
- 2024.11.24 |
今後本邦でも症候性閉塞性肥大型心筋症に対して使用可能になることが期待されている新規薬剤「マバカムテン(Mavacamten)」について皆さんにご紹介したいと思います。
肥大型心筋症は高血圧などの外的要因によらず心筋が肥大し、拡張能低下による心不全や狭心症、不整脈を起こす心筋症です(心筋症のページ参照)。肥大型心筋症の患者さんの一部に心室肥大および過剰な心筋の収縮により左心室から大動脈方向に血液を駆出する際に肥大した心筋が血液の流れを妨げてしまい、結果として心臓はより高い血圧で血液を押し出す必要があり、心臓に負荷がかかります。このような病態を「閉塞性肥大型心筋症」と言います。
具体的に左心室と大動脈にそれぞれ血圧をモニターするセンサーを入れて血圧を同時に測ったグラフを見てみると、圧力の差がない場合には大動脈圧と左室内の圧力は等圧になりますが、左室内に閉塞があると「左室内圧>大動脈圧」になり、この差分が心室内の閉塞によって生み出されます。
このような状況になると心臓に過度な負担がかかることや、僧帽弁の逆流が生じやすく、息切れといった心不全症状が出ることがあり、場合によっては急激に血圧が低下して失神することがあります。
現状治療としては①薬物治療、②カテーテル治療、③外科手術があります。
薬物治療として用いられる薬剤は心臓の収縮力を抑制するようなβ遮断薬、カルシウム拮抗薬や抗不整脈薬(これらの薬には心臓の収縮力を抑制する作用があります)を使用します。しかし薬物療法で十分な治療効果が得られない場合には外科的に肥大している心筋を切除する(中隔心筋切除術)や、カテーテルを使って心臓が肥大しているとこを栄養している冠動脈にエタノールを注入してわざと心筋梗塞を作ることで左室内の圧格差を改善させるような方法(経皮的中隔心筋焼灼術)、ペースメーカーによって心臓の収縮のタイミングをずらすことにより心臓の収縮を抑制する結果、圧格差を改善させるような治療があります。
今回新しい治療薬の「マバカムテン」は心筋ミオシンに対する選択的かつ可逆的な阻害薬です。心筋はミオシンとアクチンがお互い手を取り合って収縮するのですが、肥大型心筋症においては過剰に手をつなぎすぎているため過収縮になるところを抑制することで収縮力を調整する機能があります。これは可逆的な作用で有り、収縮が低下しても内服薬の中止により元に戻ることが示唆されています。この薬剤の有用性を検証したEXPORER試験ではプラセボと比較して有意に安静時および負荷時の最大左室内圧格差の軽減や運動耐容能、自覚症状の改善、心不全のバイオマーカーであるNT-proBNPの低下が明らかにされました。また今年に入って日本人を対象としたHORIZON試験でも同様な有効性が示され、長期間使用例の有用性についてもデータが発表されています。
今後β遮断薬やシベンゾリンといった薬物治療を行ってもなお、症候性の閉塞性肥大型心筋症の患者様に対してはこの薬剤が症状改善に寄与することが期待されます。一方で定期的に心エコーで評価しながら左室内圧格差の残存および心機能の低下をみながら用量調整が必要であったり、「CYP2C19」というマバカムテンの薬物代謝に関わる酵素の遺伝子多型が日本人に多く見られ、約20%程度の方においては代謝酵素の働きが落ちているため、マバカムテンの効果が予想よりも強く出る可能性があり、安全に使用するためにも対応が必要です。
また今後は閉塞のない肥大型心筋症においても、マバカムテンが過度な収縮を抑制することによって心筋障害の進展抑制、将来的に心血管イベントの抑制につながれば適応となる患者さんの幅も広がってくるかもしれません。
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