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2023年欧州心臓病学会(ESC)報告②
- 2024.01.13 |
2023年欧州心臓病学会の報告②になります。
今回はATTRibute-CM試験:トランスサイレチン型心アミロイドーシスに対するAcoramidis(アコラミディス)という新しい薬の効果に関する報告についてコメントしたいと思います。
内容が専門的になるので、医療関係者または現在治療中の患者様向けになることをご了承ください。
ESCのサイトで公開されているサマリーはこちらになります→ ESC2023-ATTRibute-CM trial
トランスサイレチン型心アミロイドーシスはトランスサイレチン四量体がバラバラになってしまい、結果的に単量体になったトランスサイレチンが重合することでアミロイド線維になり、アミロイド線維が心臓に蓄積することで病気が進行します。現在使用可能なトランスサイレチン安定化薬であるタファミジスと同様にアコラミディスは原因タンパクであるトランスサイレチン四量体を安定化させ、病気の進行を抑制する働きが期待されています。
トランスサイレチン型心アミロイドーシスを対象としたPhase 3のRCT(ATTRibute-CM)の研究のデザインを以下に示します。
本試験はプラセボとacoramidis 800mgの2重盲検試験(n=632)ですが、本邦ではすでにタファミジスが承認されており、プラセボ群では患者の不利益が大きく、すべて実薬群(n=22)に振り分けられています。主要評価項目は12ヵ月 時点の 6 分間歩行試験のベースラインからの変化量を評価するパート Aと 30ヵ月 時点の全死亡及び心血管イベントによる入院、NT-proBNPや6分間歩行距離のベースラインからの変化を含む階層的比較を用いて評価するパート Bで構成されています。
患者背景としてacoramidis群の年齢は中央値で77.4歳、91%が男性、90%が野生型、NT-proBNPの中央値が2326 pg/mL、eGFRの中央値が60.9 mL/min/1.73m2でした。
パートAについては、 12ヵ月 時点の 6分間歩行試験の平均低下量は acoramidis群で 9 m、プラセボ群で 7 mという結果 で有意差は認められなかったが、 Quality of Lifeの 評価項目であるKansas City Cardiomyopathy Questionnaire Overall Summary Score及び NT-proBNPはプラセボと比較して改善ました。パートBの結果ではacoramidis群においてプラセボ群と比較して主要評価項目においてwin ratio: 1.771 (p<0.0001)で一貫した有効性を示したと報告しています。
生存曲線はタファミジスの有効性を検証したATTR-ACT試験と同様に19ヶ月後より予後に差が出始め、30ヶ月後において有意差はないものの、acoramidis群が総死亡(acoramidis群:19%、ブラセボ群:25%;relative risk reduction: 25%)および心血管死亡(acoramidis群:15%、ブラセボ群:21%;relative risk reduction: 30%)において良好な結果を示したとしています。
また心血管イベントによる入院もリスクを有意に50%低下しました。またacoramidisはプラセボ群と比較して臨床的に問題となる安全性情報はなかったと報告されています。
ATTR-ACT試験のtafamidis群と比較すると野生型の頻度が多く(90% vs. 76%)、NT-proBNPの中央値が低い(2326 pg/mL vs. 2996 pg/mL)、NYHA IIIの割合が少ない(16.2% vs. 29.5%)ことから、ATTRibute-CM試験ではATTR-ACT試験と比較して軽症の症例が登録されたため、ATTR-ACT試験のプラセボ群の死亡率が30ヶ月で42.9%に対してATTRibute-CM試験死亡率が29.5%と低く、計画された研究期間および症例数では全死亡では有意差が付かなかった可能性があり、実薬群で14.5%、プラセボ群で21.8%においてtafamidisが使用され、結果に影響したことも考えられます。
今後タファミジスとアコラミディスの直接比較研究が計画される可能性は低く、それぞれの特徴や有用性に関する臨床データの積み重ねが必要です。いずれにしてもトランスサイレチン型心アミロイドーシスに対する治療選択肢が増えることは患者さんにとっては好ましいことで、今後も新たな薬剤が登場することが期待されています。
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