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心アミロイドーシスは治りますか?
- 2023.12.23 |
私の経歴にあるように、近年高齢者の心不全の原因疾患として注目されている「心アミロイドーシス」について、多くの経験をさせて頂いており、ガイドラインの作成にも携わりました。心アミロイドーシスで外来加療中の患者様から「心アミロイドーシスは治りますか?」とよく質問を受けます。今回はこの質問にお答えしたい思います。
答えは
「心臓に沈着したアミロイド線維を除去する薬剤はなく、心アミロイドーシスは完治が望めない疾患です。しかし病気の進行を遅くしたりする薬剤によって、生命予後の改善やQOL低下を回避することが可能な薬剤が使用可能です」
アミロイドーシスは難溶性のアミロイド線維が心臓、腎臓、末梢神経などに沈着し、臓器の機能低下を発症する疾患群です。心アミロイドーシスはアミロイド線維が心筋に沈着することによって生じる2次性心筋症であり、心筋肥大、拡張障害、伝導障害を来たし心不全、不整脈、突然死の原因疾患となります。心アミロイドーシスを来す疾患として、異常形質細胞から産生されるモノクローナル免疫グロブリンの軽鎖を前駆蛋白とする「ALアミロイドーシス」とトランスサイレチンを前駆蛋白とする「トランスサイレチンアミロイドーシス」の2つが主な病態であり、トランスサイレチン遺伝子の有無によって、遺伝子変異がある遺伝性トランスサイレチン型アミロイドーシスと野生型トランスサイレチン型アミロイドーシスに分類されます。最近高齢者の心不全の原因として注目されている疾患であり、有名人も罹患していることを公表されています。本疾患は「全身性アミロイドーシス」として指定難病に指定されています。
心アミロイドーシスに対する治療としては①合併した心不全や不整脈への治療、②心アミロイドーシスに対する治療を平行して行います。心不全に対する治療としては利尿剤で心不全をコントロールしたり、脈が遅くなってしまって日常生活に支障を来す場合にはペースメーカーなどのデバイス治療が必要となり、これらの治療は一般的な心不全治療と共通するところがあります。
心アミロイドーシスに対する治療については先に述べたように「ALアミロイドーシス」と「トランスサイレチン型心アミロイドーシス」の2種類のアミロイドーシスがあるのでそれぞれの治療について説明します。
ALアミロイドーシスに対する治療
ALアミロイドーシスの治療としてはアミロイドの元となるモノクローナルな軽鎖を産生する異常形質細胞を標的とした化学治療が行われます。ALアミロイドーシスは治療が難しい疾患でしたが、現在では抗CD38モノクローナル抗体であるダラツムマブという薬剤を中心とした化学療法(DCyBorD療法)の有用性がANDROMEDA試験によって示され、血液学的にアミロイドーシスの原因となる軽鎖の量を減らすことが出来る様になり、飛躍的に治療成績が向上しています。
トランスサイレチン型心アミロイドーシスに対する治療
通常トランスサイレチンという蛋白は肝臓から産生され、4つの蛋白がくっついて安定した状態(四量体)で存在しています。何らかの原因でその四量体が安定せずばらばらになってしまうと一つ一つの蛋白が絡み合ってナイロン状のアミロイド線維というものが出来てしまいます。本邦において治療薬として承認されている薬剤は「タファミジス」という内服薬です。この薬剤はトランスサイレチン四量体を安定化させて、ばらばらにならないようにする薬剤です。結果的にアミロイド繊維が出来るのを抑制します。この薬剤の有用性はATTR-ACT試験で示されています。トランスサイレチン型心アミロイドーシスと診断された患者様をタファミジス群と偽薬群の2群に分けて有効性を検討した結果、タファミジス群が30ヶ月後の死亡率が30%低下し、心臓疾患による入院が32%低下、生活の質に関する指標や運動能力も良好であったことが示されています。また副作用も偽薬と同等であったことから安全性も示されています。この結果からタファミジスはトランスサイレチン型心アミロイドーシスに対する治療薬として2019年に承認されました。
上記の薬剤に共通する点はアミロイド線維の産生を抑制することは出来るが、すでに心臓に沈着してしまったアミロイド線維を取り去ることは出来ません。我々のデータでも心エコーや画像検査でタファミジスによる治療を行うことで心肥大など心アミロイドーシスの所見が改善するというデータは示されていません。そのため心アミロイドーシスは治らない疾患であるといえますが、大事なことは心アミロイドーシスの早期診断、早期治療を行うことで、病気が悪化する前に治療介入し、長期間心不全が悪化しない状態で治療を継続することです。
現在心臓に沈着してしまったアミロイド線維を取り去るような治療(抗体療法)の研究が行われており、心臓に沈着したアミロイド線維が減っている可能性を示唆するデータも示されています。今後心アミロイドーシスの進行を抑えるだけではなく、病態を改善させるような治療薬の開発が望まれます。新しい治療については今後ブログでも紹介していきます
結論
・心アミロイドーシスの治療薬として病気の進行を遅らせる治療薬は承認されているが、現在根本的に心アミロイドーシスを完治させるような薬剤はありません。
・早期診断、早期治療により心アミロイドーシスの悪化を防ぐことが、患者さんの予後改善に寄与します。
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