内科・循環器内科・心臓リハビリテーション科

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心筋トロポニンについて

  • 2024.08.18  | 

高感度トロポニンは心筋障害(=心臓の筋肉が心筋梗塞などで壊れてしまう)により上昇する血液検査項目で、心筋梗塞の診断補助に用いられます。心筋トロポニンに関する執筆依頼を頂き、せっかくですので今回心筋トロポニンについてまとめてみました。少し専門的な内容になりますが参考にしていただければと思います。

・高感度トロポニンとは

心筋トロポニンは心筋を構成する蛋白の一つであり、筋原繊維の細かい心筋フィラメント(アクチンフィラメント)上の蛋白です。トロポニンはI,T,Cの3つの複合体であり、細胞質内にも遊離したトロポニンが存在します(可溶性cTnI:3~5%、可溶性cTnT:6-8%)。これらは心筋特異的アイソフォームを有しており、心筋障害に特異的なマーカーとされている。急性心筋梗塞により心筋壊死が生じるとトロポニンTやIが遊離し、これを検出することで心筋障害を評価としているが、実際には心不全により心筋に負荷がかかった場合には心筋壊死が生じていなくても、細胞質内に数%存在するトロポニンが遊離し、血中のトロポニンが上昇することがあります

急性心筋梗塞の国際定義(Universal definition of myocardial infarction)では、心筋障害に特異性のあるバイオマーカーはトロポニンであり、急性心筋梗塞診断に用いる高感度トロポニンアッセイは健常人の99%タイル値以下でのcoefficient variation (CV:ばらつきの程度)が10%未満を示すことが推奨されています。心筋トロポニンの基準値は健常人の99%タイル値と定められており、それぞれのアッセイの99%タイル値を基準値と検出限界(Limit of detection)を以下の表に示します。高感度トロポニンTはロシュダイアグノスティックスのアッセイのみであるが、高感度トロポニンIは複数のメーカーから販売されており、どのアッセイを使用しているかによって基準値が異なることに注意が必要です。

・高感度トロポニンによって何がわかるのか

高感度トロポニンの99%タイル値を超えた場合に直ちに急性心筋梗塞と診断するか、については総合的な判断が必要とされます。Universal definition of myocardial infarctionの第四版では高感度トロポニンの99%タイル値以上の上昇=急性心筋梗塞ではなく、上昇または下降がある場合には急性心筋障害とし、臨床的に心筋虚血(梗塞)の所見がある場合に急性心筋梗塞と診断するとしています。複数回の検査で検査結果に変動がない場合には持続的な心筋トロポニン上昇=慢性心筋障害と考えられ、心不全、心アミロイドーシスなどの心筋症が想定されます。腎機能の影響を受けるため透析患者など腎不全症例における高感度トロポニン上昇の解釈は総合的な判断を要します。

また心アミロイドーシスでは持続的にトロポニンが上昇していることが臨床的な特徴とされており、左室肥大や心不全の既往、心電図での伝導障害、手根管症候群の既往といった“心アミロイドーシスを疑うRed Flag”を有する症例においては本疾患を疑う必要があります。

・高感度トロポニンをどのようなときに測定するか

急性心筋梗塞を疑うような胸痛を訴える患者において、まずは心電図を記録し有意なST上昇を認める場合にはST上昇型急性心筋梗塞と診断し、トロポニンの評価を待たずに冠動脈造影検査を行います。明らかなST上昇を認めないが、病歴から急性心筋梗塞が否定し得ない場合には、2018年改訂版急性冠症候群診療ガイドラインでは「急性冠症候群が疑われる胸部症状を示す患者の早期リスク層別化に、心筋トロポニンを測定する」ことをClass Iとして推奨しています。初回の検査結果で心筋トロポニンの上昇がなければ初回測定から1~3時間後に、定性検査の場合には6時間後に再度トロポニンを測定することが推奨されています。

高感度トロポニンは①心不全のリスク層別化、②心アミロイドーシスなどの心筋症診断の補助および予後予測、③心毒性の可能性がある抗がん剤の使用時の心毒性モニタリング、④非心臓手術後の心筋障害の評価、④潜在的な心筋障害のスクリーニングによる将来的な心血管イベント発症の予測などが報告されています。

皆様の知識の整理、 診療の一助となれば幸いです。

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