末梢動脈疾患
Peripheral Arterial Disease 末梢動脈疾患
末梢動脈疾患とは
動脈は高血圧・脂質異常症・糖尿病・喫煙・加齢などの危険因子により動脈硬化(動脈の血管が硬くなって弾力性が失われた状態)を呈します。さらに進行すると、動脈が狭窄や閉塞する結果、血流が低下して十分な機能を発揮できなくなります。末梢動脈疾患とは特に下肢の動脈が狭窄や閉塞する下肢閉塞性動脈硬化症により、下肢に十分な血液が供給できなくなり、歩行時の足の痛みやしびれ(間欠性跛行)を来たし、重症になると下肢の壊死により下肢切断を余儀なくされることもあります。
下肢閉塞性動脈硬化症の方が5年以内に死亡する確率は30%と高く、そのうち心筋梗塞や脳卒中が原因であった方が75%でした。また生存している方の25%が急性心筋梗塞や脳梗塞を発症していました。閉塞性動脈硬化症と診断された方の63%と高率に冠動脈疾患と脳梗塞を一緒に合併していることから、下肢閉塞性動脈硬化症が見つかった場合にすでに全身の血管の動脈硬化が進んでいる可能性があり、将来的な急性心筋梗塞や脳梗塞発症のリスクが高いと考えて、生活習慣の是正や動脈硬化の予防のための適切な治療が重要です。
末梢動脈疾患の原因は
特に喫煙と糖尿病は末梢動脈疾患の発症リスクを高めることが知られており、それぞれ2.5倍、4.0倍リスクが高くなります。また糖尿病患者を対象にした検討では65歳以上の患者の12.7%に末梢動脈疾患を認めたと報告されています。
末梢動脈疾患の症状
歩く場合は下肢の筋肉では安静時に比べて10倍以上の血液が必要となります。下肢閉塞性動脈硬化症では下肢の血管が狭窄することで十分な血液を下肢に送ることが出来なくなり、歩くと特にふくらはぎが痛くなって歩けなくなるが、しばらく休憩するとまた歩けるようになる症状(間欠性跛行)が特徴で、重症になると歩ける距離が短くなります。さらに進行すると安静時にも痛みが生じ、最も重症になると皮膚を維持したり、傷を治すだけの血液が不足する結果皮膚が壊死したり潰瘍を作ります。
足の健康状態のセルフチェック
チェックした項目が複数個ある場合にはご相談ください。
- 足のしびれや冷たい感じがする
- 夏でも足が冷たい感じがする
- 以前のように長距離を歩けない
- 歩くと足の筋肉が痛くなって立ち止まることが多い。休むとまた歩けるようになる
- 旅行などで人の歩く速度について行けない
- 足の傷がなかなか治らない
末梢動脈疾患の検査
下肢閉塞性動脈硬化症の診断には足の血圧と腕の血圧を同時に測り,腕の血圧に比べて足の血圧がどの程度かを調べる検査(ABI: ankle brachial pressure index)を行います。足首と腕の血圧の比率(足首収縮期血圧÷上腕収縮期血圧)が性状の場合には足首の血圧が腕の血圧より少し高いのですが、ABIが0.90を下回る(足の血圧が低くなる)場合には血管エコーや造影CT、MRIによって動脈の狭窄や閉塞の有無,病変の範囲や程度,血管の状態を評価します。
弁膜症の治療
生活習慣の是正として特に重要なのは禁煙と運動です。禁煙によって病気の進行を遅延させ、下肢切断のリスクを減らすことができます。運動療法の基本は出来るだけ長く歩くことで、側副血行路が発達し歩行距離の延長が期待されており、心臓リハビリテーションの適応になります。薬物治療としては糖尿病,脂質異常症,高血圧症,慢性腎臓病などの疾患の管理を行い、抗血小板薬の投与を行ないます。
カテーテル治療もしくはバイパス手術などの血行再建術を行う場合
運動療法や薬物療法を実施しても症状が強く生活に支障がある、もしくは安静時に疼痛がある、潰瘍を形成しているなどの重症例においてはカテーテル治療もしくはバイパス手術などの血行再建術を行ないます。治療の選択は病変の性状や患者様の併存症などを考慮して治療法を決めていく必要があります。血行再検術が困難で潰瘍を有する症例に対しては、新しい血管を作り出す血管新生療法がおこなわれることもあります。
血管造影検査とカテーテル治療:(左図)左総腸骨動脈の閉塞が確認される (右図)ステント留置により血流が改善している
当院における末梢動脈疾患診療の特徴
末梢動脈疾患の早期診断を心がけ、専門医療機関と連携しながら最適な治療を提案します。末梢動脈疾患の患者様は血行再建術だけをすれば良いというわけではなく、当院では生涯にわたる動脈硬化のリスク管理や合併する冠動脈疾患の評価、心臓リハビリテーションの支援を行なって参ります。