内科・循環器内科・心臓リハビリテーション科

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脂質異常症

Dyslipidemia 脂質異常症

脂質異常症とは

血液中の脂質の値が基準値から外れた状態を脂質異常症といいます。脂質の異常には、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)、トリグリセライド(中性脂肪)の血中濃度の異常があります。これらはいずれも、動脈硬化の促進と関連します。

脂質異常症診断基準は以下の通りです。

LDLコレステロール
140 mg/dL以上
高LDLコレステロール血症
120~139 mg/dL
境界域高LDLコレステロール血症**
HDLコレステロール
40 mg/dL未満
低HDLコレステロール血症
トリグリセライド
150 mg/dL以上(空腹時採血*)
高トリグリセライド血症
175 mg/dL以上(随時採血*)
高トリグリセライド血症
Non-HDLコレステロール
170 mg/dL以上
高 non-HDLコレステロール血症
150~169 mg/dL
境界域高non-HDLコレステロール血症**

*  基本的に10時間以上の絶食を「空腹時」とする。但し水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。空腹時であることが確認出来ない場合を「随時」とする。
**  スクリーニングで境界域高LDL-C血症、境界域高Non-HDL-C血症の場合には、高リスク病態がないか検討し、治療の必要性を考慮する。
(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版)

脂質異常症の原因は

大部分は食生活や運動不足など、生活習慣に問題があります。
その他遺伝的要素が関連する「家族性高コレステロール血症」という疾患があり、その有病率は一般人口の300人に1名、冠動脈疾患の30人に1人程度と報告されています。若年からLDLコレステロール値が高く(未治療時のLDLコレステロール値 180mg/dL以上)、早発性冠動脈疾患(男性55歳未満、女性65歳未満)、腱・皮膚黄色腫を3主徴とします。家族性高コレステロール血症の場合には冠動脈疾患の発症リスクが10~20倍高く、早期からの厳重な管理と動脈硬化のスクリーニングが必要です。
その他ネフローゼ症候群や甲状腺機能低下症、原発性胆汁性肝硬変などに続発することもあります。

脂質異常症の症状

脂質異常症は無症状であり、放置すると動脈硬化の進展から心筋梗塞、脳卒中、大動脈瘤、末梢動脈疾患のリスクが上昇します。

脂質異常症の検査

定期的なLDLコレステロール値などの検査に加えて甲状腺機能低下症など他の疾患が背景に隠れていないか評価を行ないます。また症状や病歴から動脈硬化の評価が必要と判断される場合には以下の様な検査を行ないます。

  • 心電図
  • ABI
  • 頸動脈エコー

頸動脈エコーによる動脈硬化の評価

(左図)正常な内頸動脈 総頸動脈

脂質異常症の治療

脂質異常症の治療を行なう場合にはそれぞれの患者さんにおける動脈硬化のリスクを評価します。冠動脈疾患またはアテローム血栓性脳梗塞などの動脈硬化に伴う心血管イベントの既往がある場合には2次予防として厳格な脂質異常症の治療が必要です。
いままで動脈硬化性疾患に伴う心血管イベントを起こしたことがない場合(1次予防)は動脈硬化性疾患(冠動脈疾患およびアテローム血栓性脳梗塞)の10年以内の発症確率は以下の発症予測ツール(久山町スコア)で評価して、それぞれのリスクに応じた管理区分に基づいて脂質管理目標値を設定します。

動脈硬化性疾患の発症確率を計算してみる

※糖尿病・慢性腎臓病・非心原性(不整脈が原因ではない)脳梗塞・閉塞性動脈硬化症(下肢の血管が狭くなっている)のいずれかの疾患を既にお持ちの方は,10年以内に冠動脈疾患を発症する確率は10%以上の「ハイリスク患者」に該当しますので、この計算ツールは使用できません。

年齢必須

性別必須 男性女性

現在の喫煙習慣必須 あるない

血圧必須 ・収縮期血圧(上) mmHg

・拡張期血圧(下) mmHg

耐糖能異常必須 ある ない 不明

(空腹時の血糖値が110~125mg/dl、または経口ブドウ糖負荷試験を実施後2時間経過した後の血糖値が140~199mg/dl)

HDLコレステロール値必須 mg/dL

LDLコレステロール値必須 (以下①②のいずれかを入力してください) 

① LDLコレステロール値が表記されている場合: mg/dL

② LDLコレステロール値が表記されていない場合:下記を入力してください。

・総コレステロール mg/dL

・トリグリセライド (TG、中性脂肪) mg/dL

※空腹時採血、トリグリセライドが400 mg/dL未満の場合は総コレステロール値とTG値から推定値を計算します。
※食後採血、トリグリセライドが400 mg/dL以上の場合も計算はできますが、推定値の精度は下がります。

あなたのリスクは?

結果が表示されます。

10年以内の動脈硬化性疾患
発症確率:○○
※動脈硬化性疾患:心筋梗塞などの冠動脈疾患と動脈硬化性の脳梗塞

※ご利用上の注意として
「本ツールは日本動脈硬化学会 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版で用いられている動脈硬化性疾患(冠動脈疾患およびアテローム血栓性脳梗塞)の10年以内の発症確率に基づく脂質管理目標設定アプリです。
本ツールは医療従事者を対象としています。
家族性高コレステロール血症、家族性Ⅲ型高脂血症の患者さんにはご利用いただけません。
40歳~80歳を対象としています。80歳以上の後期高齢者一次予防に関しては、管理目標値を参考にしながら、患者の状態を把握しての治療を行ってください。
詳細は「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」をご参照ください」

それぞれのリスクにおける脂質異常症の管理目標値

治療方針の原則 管理区分 脂質管理目標値 (mg/dL)
LDL-C Non-HDL-C TG HDL-C
一次予防
まず生活習慣の改善を行なった後
薬物療法の適応を考慮する。
低リスク <160 <190 <150 (空腹時) ≧ 40
中リスク <140 <170 <175(随時)*** ≧ 40
高リスク <120
<100*
<150
<130*
<175(随時)*** ≧ 40
二次予防
生活習慣の是正とともに
薬物治療を考慮する
冠動脈疾患またはアテローム 血栓性脳梗塞(明らかなアテ ローム****を伴うその他の脳 梗塞を含む)の既往 <100
<70**
<130
<100**
<175(随時)*** ≧ 40

・* 糖尿病において、閉塞性動脈硬化症、細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)合併時、または喫煙ありの場合に考慮する。
・** 「急性冠症候群」、「家族性高コレステロール血症」、「糖尿病」、「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞」の4病態のいずれかを合併する場合に考慮する。
・一次予防における管理目標達成の手段は非薬物療法が基本であるが、いずれの管理区分においてもLDL-Cが180 mg/dL以上の場合は薬物療法を考慮する。家族性高コレステロール血症の可能性も念頭に置いておく。
・まずLDL-Cの管理目標を達成し、次にNon-HDL-Cの達成を目指す。LDL-Cの管理目標を達成してもNon-HDL-Cが高い場合は高TG血症を伴うことが多く、その管理が重要となる。低HDL-Cについては基本的には生活習慣の改善で対処すべきである。
・これらの値はあくまでも到達努力目標であり、一次予防(低・中リスク)においてはLDL-C低下率20~30%も目標値になり得る ・*** 10時間以上の絶食を「空腹時」とする。但し水やお茶などのカロリーのない水分の摂取は可とする。それ以外の条件を「随時」とする
・**** 頭蓋内外血管の50%以上の狭窄、または弓部大動脈粥腫(最大肥厚4mm以上)
(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版)

脂質異常症の治療

脂質異常症治療のためには生活習慣の是正と薬物治療を行います。

生活習慣の是正

食事療法

食事療法として、飽和脂肪酸を多く含む肉の脂身、バター、パーム油などの植物油脂(常温で白く固まる脂)の摂取を控えましょう。食物繊維の摂取、食塩の制限も心がけましょう。

禁煙

喫煙は動脈硬化のリスクを上昇させます。

運動

軽く息が弾む程度の有酸素運動を毎日30分、または週に180分以上行うことで脂質異常症の改善が期待されます。

節酒

アルコールの過度な摂取は摂取する脂質の増加も相まって、中性脂肪の増加、脂肪肝につながります。1日25g以下のアルコール摂取にとどめましょう。

薬物療法

スタチン(ロスバスタチン、ピタバスタチンなど)

コレステロールの合成酵素であるHMG-CoA還元酵素を阻害することで肝臓内のコレステロール合成を抑制することでLDLコレステロール値を30~50%程度低下させます。副作用として横紋筋融解症という筋肉の細胞が壊れて筋肉痛や尿が茶褐色になり腎臓の機能が悪くなることがあります。

小腸コレステロールトランスポーター阻害薬(エゼチミブ)

小腸からのコレステロールの吸収を阻害することでLDLコレステロール値を低下させます。

PCSK9阻害薬

肝臓にはLDL受容体という血液中のLDLコレステロールを肝臓に取り込む入口があります。このLDL受容体はPCSK9によって分解されてしまうので、PCSK9の働きを抑えLDL受容体を増やすことで血液中のLDLコレステロールをより多く肝臓に取り込むことが可能となり、結果的に血中のLDLコレステロール値が低下します。PCSK9の働きを抑制する薬剤が「PCSK9阻害薬」で2週間または4週間に一度皮下注射する薬剤(エボロクロマブ:商品名 レパーサ)やRNA干渉(siRNA)という技術を用いて6ヶ月に一度の皮下注投与で治療可能な薬剤(インクリシラン:商品名 レクビオ)が使用可能で、強力なLDLコレステロール低下効果があります。

フィブラート系薬剤(ペマフィブラート、ベザフィブラートなど)

肝臓の細胞のPPARαという核内受容体に結合し、脂質代謝にかかわる遺伝子の発現を調節します。その結果として、脂質代謝が改善し、トリグリセライド減少とHDLコレステロール増加が期待されます。

多価不飽和脂肪酸(イコサペント酸エチル、オメガ-3脂肪酸エチル)

魚油に多く含まれるイコサペント酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)にはトリグリセライド低下作用があり、これを医薬品として製造したものです。

当院における脂質異常症診療の特徴

動脈硬化による心血管イベント抑制のため動脈硬化のリスクを評価し、積極的な脂質異常症の治療管理を行ないます。2次予防の症例については特にLDLコレステロールを厳格に管理すると共に、併存する動脈硬化のリスクを管理することで動脈硬化性疾患再発を予防します。

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