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2023年欧州心臓病学会(ESC)報告④
- 2024.02.3 |
今回は欧州心臓病学会で発表された2023年度版 心筋症ガイドラインについて注目点を解説したいと思います。
心筋症は「心機能障害を伴う心筋疾患」と定義されており、2019年に日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドラインとして「心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)」が公表されています。心筋症を「心機能障害を伴う心筋疾患」と定義し、いわゆる「原発性」心筋症を,肥大型心筋症(Hypertrophic cardiomyopathy: HCM),拡張型心筋症 (dilated cardiomyopathy; DCM),不整脈原性右室心筋症(arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy; ARVC),拘束型心筋症(restrictive cardiomyopathy; RCM)の4つに分類しています。「形態・機能的変化」として心肥大・心拡大・収縮能/拡張能低下を画像診断で評価し、「家族歴・遺伝子変異」について十分な検索と評価を行う。その後「鑑別するべき疾患」として二次性心筋症の評価をしっかりと行い、最終的には原発性心筋症と診断する、という診断の流れになります。
近年Arrhythmogenic cardiomyopathy (ACM)として心臓の形態・機能的には拡張型心筋症と考えられる症例の中で、不整脈原性右室心筋症で多く見られるデスモゾーム関連遺伝子変異などの遺伝子変異を有しており、不整脈のリスクが高いと考えられる症例が存在することが明らかになりました。このような症例に対して心臓造影MRIによる心筋性状を評価した場合、” ringlike enhancement”という左室心外膜側にリング上の造影遅延像を呈することが多く、特定の遺伝子異常を有することが多いことが明らかになりました。私もこのような症例を経験し、画像診断科の先生に症例報告として発表して頂きました (Circ J 2023; 87: 1403)。
今回このような症例をnon-dilated left ventricular cardiomyopathy (NDLVC) と表現し、拡張型心筋症ほどの左室拡大や収縮低下は伴わないが脂肪変性、非虚血性の心筋の瘢痕化、心臓造影MRIでのringlike enhancementなど特徴的な造影遅延像を呈し、特定の遺伝子異常(DSP、FLNC、DES、LMNAなど)を有する病態として位置づけ、拡張型心筋症から独立させました。今後このような患者集団において自然歴、心不全および不整脈のリスク評価、遺伝子異常に基づく治療戦略の検討がなされるものと考えています。
本邦において心筋症における遺伝子診断とその結果に基づく個別化医療はこれからの大きな課題となっています。現在全国規模で心筋症などの心臓血管病に対する遺伝子研究の基盤が整備されており、将来的には正確な情報とそれに基づく最適な治療を検討することが出来る日が来るかもしれません。
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